第21回「退店時の違約金の請求」

お店を辞める時の違約金は払わなくていい!

今回のテーマは、「誓約書にサインした場合の違約金の支払い問題」。お答えいただいたのは前回に引き続き、働く女性の全国センターの伊藤みどりさんです。

Q.お店の面接のときに、誓約書提出の必要があり、「辞めるときは1ヶ月前にその旨を伝えなければいけない。もし、急に辞める場合、違約金もしくは賠償金を支払う義務が生じる」というのにサインしてしまいました。 いますぐ辞めたいと店長に伝えたら、違約金の支払い義務が生じると言われています。身分証や住民票のコピーもとられているので、親へ連絡がいかないか心配で辞められません。どうしたらいいですか。

A:誓約書において、労働基準法を始めとする法律違反となることを誓約させたものは、すべて無効です。

労働基準法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約をしてはならない」と定めています。
これは、労働者の意に反して、雇用継続を強制すること、労働者の退職の自由を奪うような違約金、損害賠償の予定を禁止して退職の自由を確保する趣旨で出来た法律です。
次に、辞職についてです。辞職とは、労働者側からの一方的な労働契約の解約と言えます。使用者の承諾の問題はなく、基本的には辞めるのは自由です。
ただし、期間の定めのない契約の場合は、2週間の予告期間が必要です(民法627条)。
また有期契約(期間の定めがある)の場合は、「やむを得ない事由」があれば辞職できますが損害賠償の問題が生じえます(民法628条)。

今回のケースを具体的に見ると2つの問題点があります。
1つ目は、「辞めるときは、1ヶ月前に伝えないと辞めることができない」という誓約書の文言についてです。期間の定めのない労働契約であれば、辞職は、合理的な正当理由は必要なく、原則として2週間前の予告を要する(民法627条)となっています。これは、労働者の労働条件を不利益に変更できない強行法規になっています。しかし、「労働者の退職の自由を不当に拘束しない限り1ヶ月程度の予告期間を合意のもとに行うことは許される」という説もあります。ただし有期契約(期間の定めのある契約)の場合は、契約期間満了の途中での辞職であれば損害賠償の問題が生じます。(民法628条)

2つ目は、「いますぐ辞めたい場合の違約金支払いについて」です。
「いますぐ」というのが、どういう契約かどうか、検討しなくてはなりません。
このケースの場合が、期間の定めていない契約であれば、「1ヶ月前に退職予告をしないと違約金や賠償金の義務が生じる」と言う誓約書は、明らかに退職の自由にペナルティを課すもので、いくら誓約書にサインをしたとしても誓約書の内容自体が民法627条違反とも言えます。 誓約書にサインしないほうがいいのですが、それだと採用されないことも多く、つい書いてしまうこともあると思います。1ヶ月前に退職予告しなかったことで、法的には違約金の支払い義務はありません。民法627条をふまえ辞める日の2週間前に退職日を入れた退職届を提出して一部をコピーして保管しておいてください(仮に違約金請求してきた時の退職の正当理由の証拠となる)。
有期契約の場合は契約期間の途中で辞めると、損害賠償が発生する場合があります。有期契約であって、いますぐ辞めたいのであれば、契約満了日まで、お休みの届け出を提出して期間満了をもって退職するという選択もあります。

なお、損害賠償請求された事例は、あっても実際に支払いにいたった事例はほとんどなく、「やむ得ない事由があれば辞職できる」の「やむを得ない事由」も、退職の自由の基本原則の視点から、あまり厳しいものではありません。

以上は、選択肢としての情報提供です。それを念頭において、あなたのお店で実行できることを選択してください。法律がそのまま守られるとは限りませんが、それらは法律違反であること、あなたは悪くないことを確信して、現実的なリスク、メリット、デメリットを考えて行動しましょう。

最後に、親へ連絡の心配について、雇用契約の主体はあくまでもあなたであって、あなた以外に連絡をすることは脅迫行為であり、法的にも許されることではありません。