パートナー・彼氏問題 その2
夜のおねえさんが考える、セックスワーカーのパートナー問題
話題の本、「身体【からだ】を売ったらサヨウナラ~夜のオネエサンの愛と幸福論 」(幻冬舎)の著者、鈴木涼美さんに、夜のお仕事をする人のパートナー問題についてご寄稿いただきました。
鈴木さんは、幻冬舎plusでも、「お乳は生きるための筋肉です~夜のおねえさんの超恋愛論~」で、夜のおねえさんたちから多くの共感を呼びました。そんな鈴木さんが考えるパートナー問題とは!?
————————————
心のなかの葛藤や苦しい痛い辛いをじっと噛み殺して表面上ニコッとしてくれるような男なんだったら別にこちらは心の中は見えないわけだしノープロブレムだと思うのだけど、そんなできた男なんてまあよく効くカゼ薬くらい滅多に出会えない。基本的に生理痛を我慢するのが仕事、みたいな女子たちに比べて男なんていうのは、腹が痛いとか仕事が忙しいとかいう事情を多少大げさにアピールして、自分の凄さを顕示したがる生き物なのでございます。だから、心に苦しさがあれば、言っておくけど俺はこんなに苦しんでいるのだぞマイッタカと言わんばかりに、言葉で身体で表現してくるものだと思ったほうがいい。
で、そういう表現というのは基本的に鬱陶しい。泣くとか言葉を並べ立てるとか、それくらいなら一応見てるふり聞いているふりをして、頭のなかで昨日のしゃべくり007に出てた女優のワンピースはどこで買えるんだろうみたいな関係ないことをぼやーっと考えるという逃げ道があるけれども、殴るとか浮気するとか友達に何かしらをばらまくとかつけ回すとかそういうことになってくると、なかなか彼の姿をぼやーっと見ながら昨日の怒り新党で有吉の話に出てきた喫茶店ってどこだろうなんてことを考えている場合じゃなくなる。
前置きが長くなりましたが、何の話かというと自分の女が風俗で働いていたりAVに出たりするのを知ると、殴って浮気して嫌がらせせずにはいられない男って面倒くさいですよね、でもそれって絶対に解決されないし改善もされないし諦めるしかないししょうがないんですよってことです。その男と付き合っている限りは。私の親友はパイナップルを食べると身体に変なぶつぶつができて調子悪いと高熱まで出るという体質だが、私がどんなに美味しくパイナップルをローストしようと、愛情を込めてハワイくんだりまでパイナップルを採りに行こうと、パイナップルがいかに素晴らしいものかとうとうと口説こうと、彼女のぶつぶつ体質がなくなったりしない。救いがないけどそれと同じで、女がオカネとかのためにニッコリ胸の谷間を見せたり腰を振ったりすることに対してのある種の男たちのアレルギー反応は、何かで克服するような種類のものではない。と私は思っている。
勿論、パイナップルに比べるとAVとか風俗なんていうのは身体よりはアタマで拒絶する類のものなので、社会的に構築された意識がそうさせている可能性は大いにある。でもやっぱりその嫌悪感っていうのはかなり身体的な反応なので、社会的構築を解いたところでなくなるかどうかわかんないし、そもそも社会が変わるのは、今寂しい夜を1人で過ごしたくないとか引っ越しに男手が欲しいとかクリスマスにディズニー行きたいとか思っている私たちにとって、若干時間がかかりすぎる。それを落ち着いた心持ちで気長に待ちたいのである。落ち着いた心持ちでいるには、好きなオトコにたまに壁ドンとか腕枕とか激しいセックスとかされたいのである。そんなオトコと一緒に気長に待ちたいのである。はあはあ。
前置きがまた長くなりましたが、私はパイナップルを食べたところで美味しいとかまずいとか感想を持つことこそあれ、基本的に体調不良になることはない。アレルギー体質じゃないオトコはいくらでもいる。私はAV出演経験がバレたという理由で私や私の次の恋人を殺しかけたオトコと別れたあと、若干太った不動産屋の元カレと付き合って、「お前の裸とかいまさらネットにばらまくぞ!とか言っても希少価値ねーからなー」と笑って言いやがるその彼に死ぬほど救われた。無論、いくらアレルギー体質じゃなくっても、パイナップルが腐っていたら食中毒にはなるけれども。
1983年東京都生まれ。蟹座。慶應義塾大学環境情報学部卒。2009年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。大学院修了後、会社員時代に出版した著書『「AV女優」の社会学』(青土社)は、小熊英二さん&北田暁大さん強力推薦、「紀伊國屋じんぶん大賞2013 読者とえらぶ人文書ベスト30」にもランクインし話題に。夜のオネエサンから転じて昼のオネエサンになるも、いまいちうまくいってはおらず、この秋、5年半務めた新聞社を退社。
▽幻冬舎plus
「お乳は生きるための筋肉です~夜のおねえさんの超恋愛論~」(幻冬舎plus)
▽鈴木涼美の著書
「身体【からだ】を売ったらサヨウナラ~夜のオネエサンの愛と幸福論」(幻冬舎)