第2回「SWASH発足のきっかけ」

セックスワーカーへの理解と協力を求めていきたい

SWASHは1999年に、セックスワーカーの健康と安全のために活動するグループとして発足し、特に、性感染症対策に焦点を当てて活動を始めました。SWASH発足のきっかけは、厚生省HIV疫学研究班セックスワーカー研究グループの調査に関わったことからです。この調査では、セックスワーカーの性感染症予防についての実態と問題を明らかにし、対策を考えました(※1)。

もちろん、私たちはセックスワーカーの性感染症のことだけが心配なのではありません。健康とは、社会的に安定した立場であることや、あらゆる権利が守られること、安全な労働環境、そのどれかが欠けても成立しませんので、セックスワーカーに対する社会の理解と協力を求めていきたいと考えています。

SWASHが発足する前の当事者たちの活動としてUNIDOS(Uphold Now! Immediate De-criminalization Of Sexwork!/1998年~)がありました。UNIDOSには、SWASHのメンバーも参加していて、特にセックスワーカーの権利のために活動していました。

SWASHの前身的な団体ともいえるUNIDOSメンバーたちは、1997年の台湾・台北市公娼制度廃止反対運動を知ったことで大きな影響を受けました(※2)。公娼制度廃止反対運動を闘ってきた、公娼たち(セックスワーカー)とその支援者のグループ COSWAS(Collective of Sex Workers And Supporters=台北市日日春關懷互助協會)と交流を深める中で、「日本でもセックスワーカーの労働者としての理解を広めたい」との思いを強くし、セックスワーカーと協力者が集まることになりました。

風俗嬢イベントや勉強会で横の繋がりを生み出す

こうした流れから発展的にSWASHが結成され、より現場貢献に特化した活動をしていきたいという思いが形となりました。セックスワーカーの横の繋がり、交流は、風俗嬢イベントや勉強会で実現し、風俗店に情報を届けるのは、アウトリーチというパンフレット配布や現場講習の形となり、現場重視の活動として現在に至ります。SWASHの活動の企画、運営にはセックスワーカーが中心となって関わっています。

風俗で働き始める時はみんな、風俗の仕事について知る機会もほとんどなく、どんな失敗や試行錯誤が待ち受けているのか、どんなリスクや対処方法があるのか、働きながら知ることになります。失敗したり傷ついたり悩んだりする前に、相談できたり、情報にアクセスできたりすれば、少しでもいやな経験を減らしたり防ぐことができると思います。

私たちは、調査や相談活動を通じて、セックスワーカーの経験と声を集め、そして、セックスワーカーの悩みの問題解決については、セックスワーカーたちの知恵と、各分野の専門家のアドバイスや協力を得て、セックスワーカーの力になりたいと思っています。

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※1 この調査の正式名称は、「日本在住のセックスワーカーにおけるHIV,STD関連知識・行動及び予防・支援対策の開発に関する研究」(グループ長:池上千寿子/特定非営利活動法人ぷれいす東京)。こうした厚労省の調査に、SWASHメンバーが研究班員という立場で関わらせてもらったり、2006年~2011年までは、「性風俗に係る人々のHIV感染予防・介入手法に関する研究 女性セックスワーカーの意識・行動調査」(研究代表者:東優子/大阪府立大学)に、研究協力者として関わらせていただきました。

※2 1997年9月、陳水扁市長(当時)により公娼制度が一夜にして廃止され、合法的に働いていた128名の公娼のライセンスが取り消されました。当事者からの嘆願と激しい抗議にもかかわらず、「転職のための2年間の猶予期間を設ける」という法律が公布されたのは、廃止決定から1年半が経過した1999年1月のことでした。それから2年後、ついに公娼制度は名実ともに廃止されることになったのです。2015年現在は、社会秩序保護法の下、各自治体にセックスワーク営業許可区域の判断が委ねられていますが、ほとんどの自治体が営業許可区域を設置していないため、事実上、犯罪化された状態と言えます。