「AV 新法」の議論に関する共同声明

5月に入り、AV 新法に関する議論の中で「誰が AV に出演契約できるのか」「どういった行為を法律で禁止すべきか」をめぐる意見が各所で発信されています。そのなかには一部の属性を持つ人(特に性暴力サバイバーや障害者)に対する差別や人権侵害にあたる意見、特定の性行為に対するスティグマを強化する意見も見られます。
AV 新法の制定に「反対の立場ではない」私たちから、AV をはじめとするセックスワークの現場にいる一人ひとりにとってより使いやすい法制度に向け必要なことは何かという観点から、声明を発表いたします。


共同声明
2022/05/15
Broken Rainbow – japan / SWASH(Sex Work And Sexual Health)/ Transgender Japan

「より安全に安心して働きたい」。性的な仕事をしてきた人たちの、この当たり前の思いや声は、「騙されやすい」「洗脳されやすい」「まともな判断能力がない」「救済されなければならない人々だ」等、無力化された当事者像の行き過ぎた一般化によって、常に否定され無視され続けてきました。

AV 新法に関する議論の中でも、同様の否定と無視が相変わらず繰り返されており、なかには性労働自体を否定する極端な意見も見られます。性的な仕事を全部「性暴力」と決めつけてしまうことは、その中で行なわれている働き方の違いを全部切り捨てることになり、かえって、そこで働く人々がより安全に働けなくなります。
性産業において、一般的な労働法制と権利の枠組みが普及することは、力関係やアクセスできる知識、情報格差の均等化を図り、より対等な契約関係にしていくために必要なことです。

また、働く人一人ひとりの被害者性や搾取性は、社会通念や性規範、女性観によって決まるのではなく、本来、労働者保護の考え方に沿って、労働実態に基づいて判断されるべきものです。
したがって、「性労働そのものが本質的に被害や搾取を伴う不適切な労働だ」との前提にもとづく議論は、今そこで働いている人々のための議論ではありません。

加えて、性行為映像作品出演被害の防止等に関する法律(AV 新法)骨子案に対する反対意見並びに要望の中には「犯罪フィクションのコンテンツを禁止する」ことが含まれ、具体例として口淫、肛門挿入、異物挿入などがあげられています。これは、特定の性行為を禁止して罰するソドミー法の考えと同じで、大変危険です。
同性間性交などで行われている行為を法律によって禁止することで、性的少数者を犯罪化してきた最低な歴史を繰り返す、人権を無視した意見や要望は決して看過できるものではなく、強く抗議します。

もちろん、「適正 AV」の業界として撮影環境・撮影項目における安全事項の設定など、自主的な取り組みは必要ですが、これらの映像コンテンツは必ずしも特定の教育や思想の流布のために制作されているわけではありません。そうしたコンテンツに安全な性交渉に関する啓蒙を組み込むことも可能です。私たちは、安全安心な性交渉は、法規制を通してではなく、性教育の充実を図り、セーファーセックスへの認知を深める活動を活発にすることで追及すべきだと考えます。

全ての人は、いかなる性別や性的指向、性表現(gender expression)や性的特徴であっても、障害の有無や人種、民族的差異によらず、それぞれに職業選択の自由を有しています。また、個々のアイデンティティや経験(例えば性暴力被害にあったという経験)は、個々人にとって重要な個人情報です。

したがって、障害や性被害経験を有するか否かなど、個々のアイデンティティや経験を就労の際の条件とすることは、人権侵害であり、決して許されません。個々人は自分の人生を自分で選択する権利を有しています。その権利が侵害され被害にあったり差別経験を持ったからといって、その力を、その権利を失ったわけではありません。

私たちはそれぞれの経験を生き抜き、ここに存在しています。
そして、自らの人生を自分で選ぶなかで人生の過程に危険が伴う時には、その危険から身を守るための権利を有しており、それを主張することが正当なことだと確信しています